第3回 鍼灸が持つ3つの顔 – 足立繁久 – 森ノ宮校友会連載ブログ① 

◆ ブログ

平成30年3月22日 
第3回 鍼灸が持つ3つの顔 – 足立繁久 – 森ノ宮校友会連載ブログ① 

第3回 鍼灸が持つ3つの顔

鍼灸には3つの顔があります。その3つとは医学、医療、そして医術です。

東洋医学には独自の医学理論があります。生理学、病理学、治療学といった一貫した治療体系を持つからこそ医学なのです。

東洋医学的な鍼灸を行うというのであれば、東洋医学の理論で一貫した治療をする必要があると思います。西洋医学の理論で無理に証明しようとする必要はないと思うのは私だけでしょうか。

例えば、中国医学には同病異治(同じ症状なのに人によって治療法が異なる)、異病同治(異なる症状なのに治療法が同じ)というケースがあります。このケースを理解するには東洋医学の病理・治療を理解していないと難しく、普遍性や再現性を重視する視点から見ると意見の相違の元となるかもしれません。

2つめの医療面は東洋医学の得意分野ともいえる領域でしょう。個々の体質や状況に合わせて治療を提供できることが東洋医学の強みでした。実際に人の体に触れ、症状のことだけなく様々な周辺情報も聴きとり、丁寧にあん摩・鍼灸・漢方などの治療を施す。

「3時間待ちの3分治療」と以前に批判された近代医療・保険診療と正反対の特徴を持っていたのが東洋医学といえます。NBM(Narrative- based Medicine)という言葉がありますが、これは患者さん一人一人が持つ物語や心情を重視した医療という意味です。個々に焦点をあてた治療を得意とする鍼灸師はEBMだけでなくNBMも知っておくと良い考え方ではないでしょうか。

医術面、これは科学的な視点と相反する要素でしょう。鍼灸は術者の経験・感性・感覚といった要素が多分に関わります。

たとえ全く同じ経穴に鍼をしたとしても同じ結果に結びつくか?というとそうではありません。術者によって微妙な鍼の違いがあります。これは切皮の仕方、鍼の扱いだけではありません。患者さんへのファーストタッチ、会話の雰囲気、術者の性格など目に見えない要素も影響するものです。

細かい要素を挙げるときりがありませんが、私たち鍼灸師はこのような鍼灸が持つ医学・医療・医術の3つの顔を理解した上で、それぞれの立場で鍼灸の治療と普及に力を尽くす必要があると思うのです。

【鍼灸師 足立繁久(足立鍼灸治療院 / 鍼道五経会)】

続く。次回の掲載は3/26~29 頃を予定しています。お楽しみに。

←←←前回 第2回「鍼の上達法」

→→→次回 第4回「東洋医学と西洋医学のシンクロニシティ」