日々のパフォーマンス向上へ繋げる為に

◆卒業生投稿

2019年12月20日

日々のパフォーマンス向上へ繋げる為に

〜不調和なこころとからだを一致させる〜

この世に存在する万物のもの、それら全てにおいて陰と陽に分けられます。月と太陽があるように、影と光、地と天、女と男、その他にもあらゆる場面において当てはめることが可能です。これらの万物の法則(陰陽論)をもとに性ホルモンと呼ばれる女性ホルモンと男性ホルモンの働きを知った上でどのように向き合えば、アスリートのパフォーマンス向上へ結びつけることが出来るのかに着目しました。また、アスリートに限らず、日々の心と身体の状態を安定させる為のヒントになるのではないでしょうか。東洋西洋の両視点から読み解いていきます。

女性ホルモン(卵巣ホルモン)とは?

女性ホルモンには卵胞ホルモンと黄体ホルモンがあります。

(*卵胞ホルモンとはエストロゲン、黄体ホルモンとはプロゲステロンと呼ばれておりますが、厳密にはエストロゲンは総称、プロゲステロンは単一の化学物質と、異なる分類段階の用語を並列しているため、適切な用語ではありませんが、一般的に使用されることが多い為こちらでは使用させていただきます。)

エストロゲン(卵胞ホルモン)は3種類存在し、卵胞の発育とともに産生されます。エストロゲンにより、子宮内膜が増殖、肥厚することで受精卵のためにベッドをつくります。エストロゲンが増える増殖期と呼ばれるこの時期は月経後でもあり、比較的アクティブに動ける時期であります。ただ、経血量が多いと一時的な血虚になり、中々体調が戻ってこないということも少なくありません。その他、HDL(善玉)コレステロールの増加、LDL(悪玉)コレステロールの低下や骨量の維持(骨粗鬆症・疲労骨折に関連)、コラーゲンの合成促進にも働きかけます。閉経期前後の更年期障害においてもこのエストロゲンの分泌状態は大変重要になってきます。のぼせやほてり、倦怠感、抑うつ感、イライラ、不眠など、過去の母も大変つらそうであったことを今でも鮮明に覚えています。 プロゲステロン(黄体ホルモン)は子宮内膜を着床に適した状態にします。エストロゲンがつくったベッドにフカフカの布団を敷くようなイメージです。排卵した卵胞は黄体となり、プロゲステロンとエストロゲンを分泌します。(主にプロゲステロン)分泌期(黄体期)にあたる時期はプロゲステロンが増加し、基礎体温が上昇します。また、食欲が増しやすく、むくみも出やすい為に体重の増加に繋がりやすい時期でもあります。パフォーマンス面においても体重に限らず、身体が重だるく眠気を強く感じる選手もいます。女性アスリートの三主徴において運動性無月経、月経については以前の投稿をお読みいただけると幸いです。

「女性ランナーの月経によるコンディショニング」
https://www.morinomiya-a.jp/2019/04/12/for-woman-athlete-1/

男性ホルモン(精巣ホルモン)とは?

精巣から分泌される主要なアンドロゲン(男性ホルモン)とはテストステロンのことです。 テストステロンは二次性徴を促進し、体型や骨格を男性的にします。分泌の低下が起こると筋力低下だけでなく、抑うつ、無気力などの心理症状を起こします。男性ホルモンと呼ばれますが、女性も一定の量は分泌されます。 以前、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を経験した選手と関わる機会がありました。PCOSとは卵巣に卵胞(卵子の入った袋)が多数できますが、排卵が起こりにくい状態です。生殖年齢の女性の約8%に見られ、症状として無月経などの月経異常、検査としてLH(黄体形成ホルモン)高値、テストステロン高値などの特徴があります。テストステロンが高いとトレーニングで筋肥大しやすく、この点においてはアスリートにとって有利ですが、基礎代謝が上がるためエネルギー不足になりやすく、注意が必要です。女性アスリートはこのあたりのバランスが大変難しく、月経があると女性の機能としては安定しやすいけれど、皮下脂肪は増えやすく、イメージされる筋骨隆々とした身体つきとは程遠いものです。それは男性アスリートにおいても男性ホルモンより女性ホルモンが多くなると、同じように逆転現象が起こります。 テストステロンとは陽の働きを持ち、筋を主る肝に作用することから外向きに働きかけることがわかります。またエストロゲンとは陰の働きを持ち、骨を主る腎または子宮に作用することから内向きに働きかけることがわかります。アスリートである限り、ライバルは存在し、勝負に勝つ為には身体も心も外向きに働かせようとすることは本来正常なことなのです。そして、筋肉を鍛えれば鍛えるほど本来の女性の性質とはかけ離れた状態になる為、女性アスリートにとってパフォーマンス向上の為の厳しいトレーニングに耐える心身と健康な心身状態を同時に求めることは理論的には無茶な話なのかもしれません。

性腺刺激ホルモンの作用と分泌調整

視床下部ホルモンの刺激を受けて下垂体前葉ホルモンより卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが分泌されます。 性腺刺激ホルモンは性腺(卵巣・精巣)に作用して、女性では卵胞の発育、排卵、黄体形成、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の産生を刺激します。男性では、精巣の発育、精子形成、男性ホルモン(テストステロン)の産生を促進します。性腺刺激ホルモンには、黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)があります。これらは分泌過剰になると思春期の早期発現(小児)や骨端線早期閉鎖(小児)などの早熟症が見られ、分泌低下になると、女性においては無月経や不妊、性器・乳房の萎縮、男性においては男性不妊、性欲低下、精巣萎縮などの下垂体前葉機能低下症が起こります。特に現代は早熟傾向にあり、これらは人工的な甘味の大量摂取が原因です。身体だけが大きくなり、心の成長がともなっていない、情報化社会の影響で脳の処理が追いついていない現状に苦しんでいる学生達で溢れていることを日々、痛切に感じています。

女らしさ、男らしさとは?

どちらの性質もバランスよく備え、中庸を目指すことは本来持つ女と男、それぞれの持つ正反対の性質、能力が落ちてしまうということです。現代はこのジェンダーの境界が曖昧になりつつありますが、まだまだ理解されがたく、自身の心と身体(陰と陽)の不一致、偏見や差別に苦しむ方も少なくありません。育って来た環境による影響は大きく、先天性のものにおいては胎児記憶、受精する前の父と母の心身の状態(いわゆる遺伝子・DNA)がやはり大きく影響するのだとなると、いかに自分の心身の状態が未来の子供達に受け継がれるのか、責任重大です。“性”というものはアイデンティティに深く関わります。これは本当にデリケートな問題です。生みの親であっても全てを受け入れてもらえるとは限りません。なぜならば、そのような教育をきちんと受けていなければ、正しい知識も持ち合わせていません。性と向き合うとは命と向き合うことなのだということをこれまでの自身の心や身体の変化を通じて今、ようやく少し理解し、受け入れられるようになったのかもしれません。女だから、男だからではなく、その人自身を丸ごと受け入れてくれる環境や相手は必ず存在します。私達は人と接することで、私とは何か?社会においての役割は何か?などの自己を確立していくことができます。決して一人では成り立たないのです。 鍼灸治療とは気血を動かし、陰陽の不調和を整えるものです。 また、辛いこと、悲しいこと、一人では立ち上がれない出来事、そんな秘めた想いを言葉ではなく、手のぬくもりで受け止めるものであると私は思います。 現代は目まぐるしく時代の変化を遂げています。 陰と陽が存在するように二つの理屈が同時に成り立っており、場面に応じて価値観を切り替えることができるのです。 陰陽のバランスを取ることが日々の心と身体の安定に繋がり、身体が資本であるアスリートにとってもまたパフォーマンス向上へ繋がると考えています。 私達は日々過ごしていると良いこともあれば、悲しいこともあるように陰陽に傾きがある(陰陽消長)、感情に動きがあることは循環していることでもあります。 生きている限り、この循環を止めてはならないのです。 どの人にも精気の虚が存在するように弱点や短所を持っています。 弱さを出せるから、強さが引き立つのです。 ゆっくりでも、自分のペースで考え、動き続ければよいのです。 100年時代と呼ばれるこの時代に私達にできることは何か、また女性鍼灸師として他者と関われることがどれほど尊いものであるのか。今後もこの先の未来を見据えながら、今という時間、この瞬間を大切に、鍼灸、古典医学を通じて多くの方々と関われることを切に願います。

【はり灸碧空福森千晶(専/鍼灸学科41期)】